金剛石



小さな手のひらにポトンと乗った小さな石ころ。

本当は何者をも寄せ付けないほどの輝きを秘めているのに、

今の姿はそれを想像すらさせない。

何故なら、それが眩い輝きを見せるのは・・・



一つだけでは叶わないから ―――――――






*****


「これを、わたしに?」

「ああ、そう言っていたよ。」

自分からではなく、リンからというものを、千尋に渡すことに多少抵抗はあったものの、

千尋を妹のように可愛がっているリンと、彼女を姉のように慕う千尋を思うと、

ハクはそのまま捨て置くことはできなかったのだ。






千尋はしばらくの間、渡されたそれを、

手のひらで転がしてみたり、日に透かしてみたりして眺めていたが・・・。

「う〜〜〜ん・・・。」

突然唸った。

「どうしたんだい?」

「あ、あのね、ハク?これって・・・何?」



千尋は金剛石の原石を見たことがなかったのだ。

まさかこれが、あの「ダイヤモンド」とは思いもつかないのだろう。

何故リンがこれをくれたのか、もしかしてからかわれているのか・・・。

そんな風に思ったのかもしれない。




ハクは、端正な白面に穏やかな微笑みを浮かべると。

「ああ、これはね・・・。」







*****


「おい、ハク様ー。これを、千にやってくれないか。」

そう言って、リンから渡されたのは、小さな金剛石のかけらだった。

ハクは、これがどういうもので、千尋のいるあちらでは『どういう時』に贈られるかも知っていた。

だから尚のこと、一体どういうつもりなのだ、と訝りながら眺めていると。



「この前、お客からもらったんだ。あっちの世界では、値が張るって聞いたけどさ、
 こっちじゃただの石ころじゃん。
 オレはあっちに行けないから、千にやってくれよ。「くりすます」とかいう祭りも近いんだろ?」

・・・ちょっと早いけどさ、お年玉みたいなもんだから。



照れくさいのか、頬をぽりぽりとかきながら、

目的は果たした、とばかりにさっさとリンは行ってしまった。

その後姿を見る限り、恐らくリンはこの石ころがどういうものなのかは、

詳しくは知らないのだろう。

原石の欠片を懐にしまいながら、ハクは小さく苦笑した。

それは、彼なりの「了承」の仕草といえよう。



*****


そんな出来事を聞いているうちに、千尋はふと気がついた。



・・・まるでハクみたい。



本当はとても優しい人なのに、湯屋の者達からは恐れられ、敬遠されている彼。

自分が知っている優しくて、強いハク。

でも、それをひけらかすようなこともしない。

湯屋の皆に本当のハクを知って欲しいと思う一方で、

本当の姿を知っているのは自分だけだという、妙な優越感もあり・・・。





「・・・ちひろ?」

・・・へ?

「私が・・・金剛石?」

独り言のように、自分の胸の中に収めておくはずだった言葉は、

考え事をしていたせいか、つい口に出てしまっていた。

・・・ど、どうしよう〜っ!!







今までは・・・、特に千尋と想いを通わせるまでは、

自分の心は冷たく凍りついた氷の塊だと思っていたし、それでいいと思っていた。

けれど。

思いがけない千尋の言葉が、何故かしっくりと来た。



自分の心が金剛石・・・・・・?



金剛石は、原石のままでは何も光らない。

他の石ころと同じだ。

だが、金剛石は強く、固い。

他のものでは切ることができない。

ただ一つ、金剛石を切ることができるのは―――



ほかでもない、金剛石自身なのだ。






自分も同じ。

千尋への想いこそが自分を強くさせる。

だからこそ。

ただ一つ、自分を切り刻むほどの傷をつけることができるのは、

千尋しかいない。

千尋と自分。

二人が共に想いを寄せ合うことで、互いの心は磨かれて。

繋がった想いは眩しい光を放つのだ。



何故かは分からないが、そう自分の中で結論づけたことが、

ハクを温かな気持ちにさせていた。






ごめんなさい、違うの!誤解だよ・・・?などと口走りながら、

わたわたと慌てている千尋の手を取って、

ハクの唇がその手のひらにむけて何やら呟くと・・・。



「うわぁ〜。ハク!これって、ダイヤ・・・?」

けれど、それは一瞬で白い煙となってしまって。

「うん、今はまだこのような、まやかししか見せてあげられないけれど・・・。」

・・・いつか、必ず『本物を』あげるから。

「ううん、凄いよ、ハク!びっくりしちゃった!!」

・・・それまで、待っていて?



敢えて声に出さずに呟いた言葉は、彼女に通じているだろうか。

冬の冷気が頬を撫でるせいで赤らんだ横顔を見ながら、

ハクは心で思う。



・・・そなたこそ、私の金剛石。私の、たった一つの・・・輝石なのだよ?







いつの間にか、ちらちらと雪が降り出していた。

わ〜初雪だね!と笑顔を見せる千尋を微笑みと共に抱き寄せる白い狩衣のハク。

二人を隠しながら、緩やかにそして、静かに舞い落ちる雪の華たち。

金剛石が綺麗なダイヤに変わる日を予感させるように、世界を白く染めていく・・・。



・・・Merry Christmas!









いつもお世話になっています『PURE WIND』のゆっちさまから
クリスマス企画フリー小説をいただいてきました!!

実はわたしは宝石にはすごく疎いもんですから(^^;)、
「金剛石」って知らなかったんですよ〜〜
ダイヤを研磨するのは、ダイヤなんですね。ほぉーー!(ひとつお勉強v)
それをハクと千尋になぞらえるなんて、なんとセンスのよい!!!

まだ、おたがいに、決して完成度の高い輝きを放っているわけではない「原石」。
でも、だからこそ、どんな宝石になってゆくか、無限の可能性があるんですよね。
う〜〜ん含みが深い!!さすがゆっちさまですvv
ふたりで少しずつ気持ちを深め合って高めあって、きらきら光る珠玉になっていってほしいですね(^^)

ああ、クリスマスに素敵なプレゼントをいただいて、
ほくほく気分です〜〜!!

ゆっちさま、ほんとうにありがとうございました!!

ゆっちさまのサイト『PURE WIND』へは、リンク部屋から行けますので、ぜひ♪





♪この壁紙はさまよりいただきました♪



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