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<<< むかしばなし >>> 第一夜

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むかぁしむかしある村に、センという、ちょおっとばかり天然やけど働きもんの、かあいらしい娘がおったそうな。



ある日、センが畑を打っておったらな。

「うーーーーーうーーーーーーーーうーーーーーーーーーーー」

という、唸り声のようなもんが聞こえてきたんやて。


「なんだろ?」

不思議に思うたセンが、その声の方へ、声の方へと寄っていくと。


田んぼのすみの用水路で、一匹の白い犬があっぷあっぷしとったと。


「まあっ!たいへん!」
うなぎ取りの罠にでも、足をとられたのかな。



センは急いでその犬の側に駆け寄ろうとして。


固まってしもた。





     ・・・・・な、長い、、、犬・・・・・。




身の丈10間はありそうな巨大な犬が、・・・・用水路にはまっておった。





     こんなへんな犬、見るの初めて・・・・。

     あ、犬じゃなくて、蛇かな。
     よく、わかんないけど。

     でも、苦しんでいるし。
     とにかく、助けてあげないと。




「あ、あの、、、犬さん、、だいじょうぶ? 漁師の罠にでも、かかったの?」

「ぷしゅーぷしゅーーしゅううーーーーーーーげほごほごぼぼっ」

よく見ると、口元に長い髯(ひげ)。




     ん?犬にこんな長い髯、あったっけ・・・?
     それに、何? 角みたいなものもある。。。。



一瞬、ちらりと疑問が頭をかすめたのやけど、そこは天然なセンのこと。
深く考えるの、やめてもた。


ともかく、その髯が、うなぎ取りの罠にはさまってしもうたもんで、水面付近で顔をあっぷあっぷさせるはめになったらしい。


「まあたいへん。夕方になったら水門が開くのよ。水が深くなって、おぼれてしまう」


センは、ざぶざぶと用水路に入り、なんとかその髯を罠からはずしてやろうとしたんやけど。


あいにくそれは、がっちりと罠に食い込んでしもててなぁ。
どうがんばっても、はずれへん。


「無理だわ。ねえ、このおひげ、切ってもいい?」

センが畑仕事に使っていた鎌を持ち出すと。


「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!!」

その犬は顔を引きつらせ、思いっきりいやいやをする。

けど。


「がまんしなさい!しかたないでしょ!!おぼれるより、マシなんだから!!」


娘に叱られて、しぶしぶ、おとなしくなる、白犬。



がしっ。

センの鎌が、罠に引っかかっておった髯を切ったとき。




ぼわわわわーーーーーーーん。


突然、水面に白煙が立ち上った。



その煙の中に、さきほどの、犬。



「ひえっ!?」

センが尻餅をついて驚いてると。


「そなた。なかなかに感心な娘じゃ」
その犬が口をきいた。


「きゃーーーーーっ! い、犬がしゃべったーーーーーっ!」

「犬ではないっ!!!! 龍だ! 水神だ!!!」

「へ? 龍神さま?」

「そうだ。この用水路の守り主、ハクだ。」

「ハク・・・」

「無礼な。わたしのことは、ハクさまと呼べ」


そう言って、その犬、もとい龍神は、ぐい、と胸を張ってみせた。


きらきらと光る、白銀の鱗。
澄んだ翡翠の瞳。

目を奪う美しさに、しばし見惚れる、セン。

その反応に満足した龍が、再び口を開く。



「助けてもろうた礼をせねば。娘、なんぞ望みはないか。かなえてやろう」
鷹揚(おうよう)な態度で、問う。


「え? いいえ、べつに・・・」


龍は目を細める。

「無欲なのだな。感心な娘。だが、遠慮はいらぬ。申してみよ」


「はあ。。。。。」
そんなこと、突然言われてもなぁ・・・。



「そうだな。たとえば」

「たとえば?」

「このわたしと一緒に暮らしたいとか」

「は?」

「わたしと二人で住みたいとか」

「ええ?」

「わたしと生活をともにしたいとか」

「えええーーーー???」

「ええいッ、じれったい娘だ。もう待てぬ。今申した3つの中から選べ」

「えっ! あのっ!?」

「早くせぬか。1番2番3番、三択問題だ。さあ、どれだ?」

「え、ええと、、、じゃ、『1番』で・・・・・」



娘の答えを聞いて、龍神は満足げに頷いたと。

「ふむ。そう申すであろうと、思うておった。よろしい。その願い、かなえてつかわそう」



ふぉっふぉっふぉっ、と、笑い声を残して娘の前から去ってゆく、龍。


の、後姿に向かって。
我に返ったセンが、突然、声をあげた。



「あのーーーーー! 龍神さまーーーーー」


呼ばれて、ゆったり振り向く、白い龍。

「何だ?」

「ひとつだけ、聞きたいんですけどーー」

「うむ」

「なんで、水の神さまなのに、溺れかけてたんですかーーーー?」


べしゃ。



美しき龍神は、娘の問いには答えずに、あくまでも優雅にその姿を消したとな。


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