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<<< むかしばなし >>> 第二夜
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さて。
その夜遅うに。
センが夕食の支度をしておると。
粗末な小屋の戸を、ほとほとと叩く者があったそうな。
こんな時間にいったい誰?・・・・とセンが戸をあけると。
「ああ。やっぱりここだな。」
というて、白ずくめの旅装束の美しい若者が、ずい、と中に入ってきた。
「あ、あのっ!? あなたは????」
「おや。忘れたとは言わさぬ。そなたと私は契りあう約束をした仲」
「え?ええええええーーーーっ????」
驚くセンを、その者はぐい、と抱き締めたかと思うと、なんといきなり接吻。ぶちゅ。
手ぇ、早いなぁ。
でもって、目ぇまんまるにしてるセンを、ひょい、とお姫様だっこしてな、どんどんと部屋の中へ入ってゆくのや。
「なんだ。まだ閨(ねや)の準備もできていないではないか」
部屋の中に布団も敷いてへんのを見て、あからさまに不機嫌になって。
「あああああのっ! わたし、いま晩御飯のしたくしてたとこで、、、」
「ん? おおそうか。私に馳走をしようとしていたわけだな?」
とたんに、機嫌直したんやけど。
「そ、そうじゃなくて!」
「なんだ」
「わたし、あなたと結婚の約束なんて、してませんーーー」
「なにっ!?」
直した機嫌が、また、たちどころに悪うなる、悪うなる・・・・・
「だって・・・・」
「だって?」
「わたし、こう見えても、一応、女なんです。」
「それは、もとより承知。」
「だから・・・『お嫁さん』は、もらえませんっっ!」
ぴし。
若者の額に、青筋が。。
「わ、私は、『男』だーーーーーーっ!!!!」
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まあ、いろいろあったようやけど。
もともと、ものごとを深うは考えんセンと。
何考えてるんか、ようわからんその男は。
結局、一緒に暮らし始めたと。
「行ってきまーす!」
日の出とともに、元気に畑に出るセンを。
「うむ・・・・」
布団の中から手だけ振って、送り出す、男。
どうも、朝は弱いらしいな。役に立たへんわ。
血圧、低いんやろかなぁ。
「ただいまー。ああ、おなかすいたー」
朝の一仕事を終えてセンが小屋に戻ってくると。
「遅かったな。腹がすいたぞ」
男はのそのそと、けだるげに布団の中から出てきて。
鏡の前に座り、櫛や鬢付け油など手に、念入りに身拵えなど、はじめる。
「ほら・・・おめかしもいいけど、はやくしないと、お味噌汁冷めるよ?」
朝飯終わったセンが、さっさとあとかたづけを済ませ、昼に畑で食べる握り飯など作っとるころ。
男はようやっと膳について、優雅な箸づかいで、のんびりと漬物など、つまんどる。
と。ふっと顔をあげて。
「セン」
「ん?なーに?」
「わたしにも握り飯をつくっておいておくれ。昼飯はそれでよしとしてやるから」
「うん、いいよ。」
「帰りは遅いのか?」
「んーーー。からすが鳴いたら、帰ってくるね」
ふむ。
茶をすすりながら。
あとでどこぞのカラスを捕まえて、シメて鳴かそう、などと考えている、男。
まあ、こんな男なんやけど。
夕方センが、なんだか今日はいつもよりからすが鳴くの、早かったような気がするな、などと思いながら、小屋にもどってくると。
「!!!!!!なにこれっ!!!!!!」
部屋の中には黒い煙がもうもうと立ち込め、いろりばたで、肩を落とした男がしょんぼり三角座りしとる。
いろりの上には、真っ黒にこげた、鍋。
「どど、どうしたのっ!!!!」
「・・・・・セン〜〜〜〜・・・・・」
男が消え入りそうな声で釈明するところによると。
センが畑から帰ってきたときに。
汁が冷たくてはかわいそうだと。
朝の味噌汁の残りをいろりにかけて、あたためておいてやろうと思ったという。
「まあ・・・・」
「すまぬ・・・『火』の扱いには、不慣れなもので・・・・」
小さく萎れている男がいじらしくて。
センは、そっと、その肩を抱いてやった。
とまあ、この男、役立たずなりに、可愛いとこもあるようで。
・・・・・なんやかや言いながら、結構、うまくいってるらしかった。この夫婦。
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