**********************

<<< むかしばなし >>> 第二夜

**********************






さて。

その夜遅うに。



センが夕食の支度をしておると。
粗末な小屋の戸を、ほとほとと叩く者があったそうな。




こんな時間にいったい誰?・・・・とセンが戸をあけると。


「ああ。やっぱりここだな。」

というて、白ずくめの旅装束の美しい若者が、ずい、と中に入ってきた。



「あ、あのっ!? あなたは????」

「おや。忘れたとは言わさぬ。そなたと私は契りあう約束をした仲」

「え?ええええええーーーーっ????」



驚くセンを、その者はぐい、と抱き締めたかと思うと、なんといきなり接吻。ぶちゅ。
手ぇ、早いなぁ。
でもって、目ぇまんまるにしてるセンを、ひょい、とお姫様だっこしてな、どんどんと部屋の中へ入ってゆくのや。




「なんだ。まだ閨(ねや)の準備もできていないではないか」

部屋の中に布団も敷いてへんのを見て、あからさまに不機嫌になって。


「あああああのっ! わたし、いま晩御飯のしたくしてたとこで、、、」

「ん? おおそうか。私に馳走をしようとしていたわけだな?」

とたんに、機嫌直したんやけど。



「そ、そうじゃなくて!」

「なんだ」

「わたし、あなたと結婚の約束なんて、してませんーーー」

「なにっ!?」

直した機嫌が、また、たちどころに悪うなる、悪うなる・・・・・




「だって・・・・」

「だって?」

「わたし、こう見えても、一応、女なんです。」

「それは、もとより承知。」

「だから・・・『お嫁さん』は、もらえませんっっ!」


ぴし。
若者の額に、青筋が。。



「わ、私は、『男』だーーーーーーっ!!!!



* * * * * * * * * *



まあ、いろいろあったようやけど。


もともと、ものごとを深うは考えんセンと。
何考えてるんか、ようわからんその男は。


結局、一緒に暮らし始めたと。




「行ってきまーす!」

日の出とともに、元気に畑に出るセンを。

「うむ・・・・」

布団の中から手だけ振って、送り出す、男。
どうも、朝は弱いらしいな。役に立たへんわ。
血圧、低いんやろかなぁ。





「ただいまー。ああ、おなかすいたー」

朝の一仕事を終えてセンが小屋に戻ってくると。

「遅かったな。腹がすいたぞ」

男はのそのそと、けだるげに布団の中から出てきて。
鏡の前に座り、櫛や鬢付け油など手に、念入りに身拵えなど、はじめる。



「ほら・・・おめかしもいいけど、はやくしないと、お味噌汁冷めるよ?」


朝飯終わったセンが、さっさとあとかたづけを済ませ、昼に畑で食べる握り飯など作っとるころ。
男はようやっと膳について、優雅な箸づかいで、のんびりと漬物など、つまんどる。



と。ふっと顔をあげて。

「セン」

「ん?なーに?」

「わたしにも握り飯をつくっておいておくれ。昼飯はそれでよしとしてやるから」

「うん、いいよ。」

「帰りは遅いのか?」

「んーーー。からすが鳴いたら、帰ってくるね」


ふむ。


茶をすすりながら。
あとでどこぞのカラスを捕まえて、シメて鳴かそう、などと考えている、男。






まあ、こんな男なんやけど。





夕方センが、なんだか今日はいつもよりからすが鳴くの、早かったような気がするな、などと思いながら、小屋にもどってくると。



「!!!!!!なにこれっ!!!!!!」


部屋の中には黒い煙がもうもうと立ち込め、いろりばたで、肩を落とした男がしょんぼり三角座りしとる。
いろりの上には、真っ黒にこげた、鍋。


「どど、どうしたのっ!!!!」


「・・・・・セン〜〜〜〜・・・・・」


男が消え入りそうな声で釈明するところによると。


センが畑から帰ってきたときに。
汁が冷たくてはかわいそうだと。
朝の味噌汁の残りをいろりにかけて、あたためておいてやろうと思ったという。



「まあ・・・・」

「すまぬ・・・『火』の扱いには、不慣れなもので・・・・」


小さく萎れている男がいじらしくて。
センは、そっと、その肩を抱いてやった。






とまあ、この男、役立たずなりに、可愛いとこもあるようで。

・・・・・なんやかや言いながら、結構、うまくいってるらしかった。この夫婦。



* * * * *



<INDEXへ> <小説部屋topへ> <むかしばなし1へ> <むかしばなし3へ>