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<<< むかしばなし おまけ・人魚の涙 (1)>>> 

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湯屋油屋。

とある終業後の、従業員控え室。



隅っこのほうで、なにやら嬉しそうに話している三人の小湯女。


かなり興奮気味にしゃべっている、目のくりくりとしたのと。
その隣で時折、そっとことばを添える、ほっそりしたのと。

その二人の話に、ふんふんと肯きながらメモを取る、髪が綺麗で、頭の回転のよさそうなのと。





「でね、でねっ!!! もう、カツラも出来上がったし、準備は着々と進んでるのよ〜〜〜!!!!」
はじけるような早口でまくしたてる、くりくり目の小湯女は、あやめ。


『第二回 愛の油屋劇場 実行委員会』のメンバーで。
ノリがよく、社交的で誰とでもすぐ仲良くなれるタイプの彼女は、なにかコトを盛り上げるには必要不可欠な人材。
こういう企画の実行委員には、うってつけ。




「あとは・・・・そうね、センにあれを作ってもらったら、もうほぼ出来上がりだと思うの」
控えめに微笑む、ほっそりした娘は、まき。
彼女も『実行委員』の一人である。


おおらかで、それでいて、周囲への気配りこまやかな小湯女で。
人あたりのやわらかさと、穏やかな人柄で、まわりからも信頼されている。


が、実は。・・・彼女は。

『日刊・油屋社内報』で絶大な人気を誇る連載コメディー小説、「華麗なる龍神ハク〜うるわしの女学生編vv〜(*注)」の筆者であるという『裏の顔』をも、持っている。

*注:まだお読みになっていない方は、リンク部屋から
「Close To The Night」さまへ、どうぞ♪





「なるほどなぁ。ほんで、衣装合わせとかは、いつするん?」
髪の美しい、関西風味の小湯女は、ひさかた。


絵も文も達者に書く特技を持っていて。
『日刊・油屋社内報』の編集長をつとめている。

今週は、来月上演される社員劇の特集を組むことになっているので。
こうして、実行委員の小湯女たちに取材をしているのである。




「あれ?ところで、『実行委員長』、なんでおらへんの?」

「みちるのコト? ああ、あのコねー、また『出張』〜」

「へぇ。いそがしなあ。まあ、楽しそうにやってるし、ええのやけど」

「仕事できる子だから。どうしても頼られてしまうのよね、みちるは」



『みちる』と呼ばれる娘も、小湯女の一人なのだけど。
海外出張(?)もなんのその、何かと使えるしっかり者なので、ちょっとした遠出の使いなどよく言いつけられたり、する。
機転も利くし、「コドモのお使い」しかできない蛙男などより、よっぽど役に立つし。

外に出る機会が多いので、他所からの最新の情報やファッション動向などにも詳しく。
プロポーションに恵まれている彼女は、流行最先端の衣装も難なく着こなせ、ある意味小湯女たちの間のファッションリーダーなのだ。




と。

そのとき、ばーーんと、勢いよく扉が開いた。


「なになになに〜〜〜???あたしのこと、なんか言ったーー??」

「あ、みちるー!おかえりーー!!」

「ただいまーーーー!!! ねぇ、見て見て! 出張先でいいもの見つけたのーーー!!」

言うなりみちるは、いきなり桃色水干の腰紐を解き始め。

「な、なんやの、藪から棒に・・・・」




「ほらっ!どう???」

みちるは、すぱぱっと水干の上着を脱ぎ捨てる。

と。その下には。



「わぁーーー!!!! 可愛いっ、その腹掛け!!!!」

「腹掛・・・きゃみそーる、って言ってよ〜〜あやめ〜〜。 今、街で流行ってるのよ」

「へぇー。変わったもん、買うてきてんなぁ。どれ・・・」

「ちょっと! ひさかた、乱暴に引っ張らないでよっ! あたしの『勝負下着』!」

「しょ、しょう・・・・???」

「そうよっ! このボヘミアン調のレースとフリルがポイントなのよっ!!」

「何言うてんの。相手おらへんかったら意味ないやんか」

「あ、相手くらい、いくらでもっ!!」



白熱しかかったその場は、穏やかなまきのひとことで、なんとなく収まってしまう。

「ふふ。みちるは何でも似合うから、いいわね」





「----で。三人そろって、何してたの」

「あのね、ひさかたが、来月の劇のこと、あたしたち実行委員に取材したいって言うから」

「ああ!そのことね! あのね、あたし思うんだけど、このきゃみそーる、ハクさまの舞台衣装にどうかな!?」

「わああっ!!!! いいじゃん、みちる!!! うん、いいよ、絶対!!」

「あーやーめーーー。 あんたなぁ、ハクさまがみちるの『勝負下着』なんかつけても平気なん?」

「はっ!」

「却下、却下。」

「ええーー。いいと思うんだけどなー。このキャミ絶対似合うよ? ハクさまに。」

「あかんあかん。そのひらひらしたのん、ハクさまに着せるくらいやったら、うちの黒いレースの・・・あ、いやその・・」

「いっそ、あたしのヒョウ柄のじゃ、だめかなっ!?!?」

「いや、白フリル!」

「黒レース!」

「ヒョウが・・・」


「・・・・・・・あのね。『人魚姫』なんだから。。。。腹掛けはいらないと、思うの・・・。」

またまた、まきの一言で、なんとなく収まってしまう、小湯女組。



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