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「あ、あの・・・。その、お袖口についた赤いもの、って、、血・・・?」 話の雲ゆきが、重くなってくるにつれ。 千尋の唇が、だんだんと青ざめてきて。 「千尋。こっちへおいで」 ハクは、小刻みに震える千尋を自分の傍らに呼び寄せた。 「長い話になったから。疲れたろう? 少し、お休み。」 素直に寄ってきた少女の頭をそのまま引き寄せて。 しばらく、その髪を撫でてやる。 「ハクぅ・・・。お姫様、可哀想だよう・・・。」 「うん。大丈夫。大丈夫だから」 ぐすぐすと鼻を鳴らしていた人の子は、ほどなく、うとうとと船を漕ぎ始め。 そのまま、すとんと龍神の膝の上に倒れこんだ。 「まあ。これからが肝心なところだったのに。眠らせてしまうなんて」 萩襲ねの小袿姿の少女が、くすりと笑って軽く咎める。 「今にも泣き出しそうだったではないか。可哀想に」 ハクは、白い水干を脱いで、自分の膝を枕にこんこんと眠ってしまった千尋の背にふさりと掛けてやる。 千尋を泣かせるのは、嫌だ。 術で眠らせてしまうのは卑怯だと言われたとしても。 やはり、嫌だ。 ハクは、大切な少女の意識を安らかな檻の中に逃してから。 やおら、目の前の姫に向き直った。 「そなたの話したいことは。あとは、わたしが聞こう」 「千尋に聞いてほしかったのに」 「駄目だ。そなたの想いを受け止めるには、・・・・千尋はまだ稚い」 「そんなことはないと思うけど。聞いておいてもらうほうが、あなたのためにもよいのに?」 「とにかく、駄目だ」 . 「・・・・・あなたも、優しいのね」 姫は一瞬ふっと、遠いような懐かしいような目でふたりを眺め。 それからまた、おもむろに話し始めた。 * * * * * |