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<<< むかしばなし >>> 第三夜
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「なあ、セン。お前最近、すげー別嬪の女房、じゃない、亭主もらったんだって?」
百姓仲間のリンが、畑仕事の合間に声をかけた。
「え? ああ、うん。そうなの」
「・・・・そうなの、って。なんで畑出てこねーんだよ、そいつ。病気か?」
「ううん元気だよ。日焼けするの、いやなんだって」
「はあ?」
にこにこしてるセンを見て、リンはかなり心配になったんや。
「おい・・・・じゃ、そいつ、昼間はなーんもしねーで部屋ん中でぷらぷらしてるって事かぁ?」
「うん。あ、なーーんにもしないわけじゃないよ。最近はお茶碗を流しに下げて、お水につけとくくらいはしてくれるようになったよ」
・・・・・なんじゃ、それ・・・・。
「・・・・洗わねーのか?」
「だって。あの人に洗わせたら、全部割っちゃうんだもの。」
「メシ炊きくらいは・・・できるんだろな?」
「お炊事だめなのよ。火を扱うのが下手でね」
・・・・・おい。。。。ちょっと待てよ。。。
そりゃあ、きょうび、『男は外で働き、女は家を守るのが当り前』って風潮ではないよ、確かに。
女がばりばり外で働いて、男が家の中のことを担当する、ってのは、ぜんぜん悪いことじゃないと思う。
でも、・・・・この場合、それも当てはまってないんじゃないか?
「じゃあ、・・・そいつにできる事って、何さ?」
「うふふ。あのね」
「うん」
センは、そこで頬をぽっと赤らめて。
「お風呂♪」
「ふ、風呂ぉーーーーー????」
ちょっと待てっ! いくら新婚でも、いくら天然でも、昼間っから外で言っていいコトとよくないコトがっっっ!!
慌ててあたりを見回すリンにおかまいなく、センは嬉しそうに続ける。
「聞いて聞いてーー、すごいんだよー!! なんだか知らないけど、ぶつぶつ呪文みたいなの唱えたら、お風呂の中に、さーーーーっとお水がたまるの! さーーーーっと、だよ!? 魔法みたいなのーーー!!!」
「・・・・はぁ?」
「今度、リンさんにも見せてあげるね!」
「お・・お水ねぇ・・・・。どうせなら湯をためてくれりゃいいのに」
「ああ、それはできないみたい。だから、わたしがあとから火をくべにいくの」
・・・・・・・・。
リンの脳裏には。
なにやらあやしげな術で得意げに風呂に水をためる色白男と。
やんやと拍手喝采で単純に喜んでいるセンの。
ままごとのような姿が浮かんできてな。
あほらしくなってきたんやて。
けど、ほっとくわけにもいかんから。
「あのな。セン。そういうの、世間一般では『役立たず』とか、『ごくつぶし』とか、『ヒモ』とか言うんだぜ。・・・おめー騙されてるって。絶対」
「えー。そうかなぁ・・・」
「そうだって。なんかして稼がせろよ。なんでお前がそいつ養ってやんなきゃならねーんだよ」
「うーん・・・。わたしは別にいいんだけど」
「ばかやろー。畑仕事や炊事ができねぇんなら、機(はた)織りさせるとか、ろうそくに絵でも描かせるとか、傘張り内職させるとか・・・・さもなきゃ、色町に売り飛ばしちまえ!」
「そ、そんなあーーーーーーー」
* * * * * * * * * *
その夜のセン夫妻の『夕食時の話題』は。
なんとなくリンの話になったんやけど。
「・・・・・・なに? こ、このわたしが。。。『役立たず』で、『ごくつぶし』で、『ヒモ』だと言うのか・・・っっ!?」
話を聞いて、押しかけ亭主はわなわなと震えだしてな。
「なんという無礼なことを!! うむ、よかろう。明日から働いて、稼いでみせようぞ」
がぜん、やる気出したみたいなんやけど。
「じゃあ、明日から、一緒に畑に出る?」
「・・・いやそれは・・・これから紫外線も強くなるシーズンだし・・・」
「それじゃ、お炊事?」
「何を言う。わたしは火が苦手なのだ」
「んーー。じゃ、機織りとか、ろうそくに絵かくとか、傘張りするとか」
「辛気臭い」
「・・・・・いろま・・・」
ちに、売りには出さないけど。
と、押しかけ亭主は、水干の懐からなにやら一枚の紙をおもむろに取り出して、センに見せた。
「夕刻、町を歩いておったらな、渡されたのだが。これはどうだろう」
「ん?」
うすっぺらい瓦版のようなもの。
--------『高給保証。 容姿端麗な方、求む。 週に2〜3日、一日3時間位よりOK。秘密厳守』
「あ、あの・・・?」
「『容姿端麗な方求む』とあるだろう。しかも、毎日出勤しなくてもよいそうだ」
・・・・・そういう意味では、ぴったりかもしれないけど。。
「あ、あのね。これは、女の人向けの求人広告だと、思うの」
「なに、化粧をすれば、わかるまい」
そ、そうかもしれないけどっ!!!! なんか違うっ!!!!
「そうと決まれば、明日、さっそく面接に行ってくる」
言うなり、亭主は、柳行李の中から衣装を引っ張り出し、あれでもない、これでもない、と鏡の前であてがったりしている。
やる気満々なのは、いいけれど・・・・
「あの・・・・今まで聞いたことなかったんだけど・・・」
「何だ」
「あなたね、年いくつ?」
「ななっ、何を聞くのだっ突然にっ!!しししし失礼ではないかっっ!!!」
・・・・・あれ。聞かれたくないことだったのかな。
「だ、だってね、ここ・・・・ほら、年齢制限が・・・・」
瓦版には。最後のところに『年齢:20〜28歳位迄』と。
「う!?」
なぜ、センがわたしの『年齢』の秘密を知っているのだ!?
見かけは若くても。
実は相当、年『いって』るんやわ。この男。
言葉に詰まってしもうた亭主を前に、センは思った。
--------あ。黙っちゃった。でもね、どう見ても、20歳以上には、見えないんだもの。雇ってもらえないよ。きっと。
・・・やっぱり、どこまでも天然なセンであったとな。
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