**********************

<<< むかしばなし >>> 第三夜

**********************






「なあ、セン。お前最近、すげー別嬪の女房、じゃない、亭主もらったんだって?」

百姓仲間のリンが、畑仕事の合間に声をかけた。



「え? ああ、うん。そうなの」

「・・・・そうなの、って。なんで畑出てこねーんだよ、そいつ。病気か?」

「ううん元気だよ。日焼けするの、いやなんだって」

「はあ?」


にこにこしてるセンを見て、リンはかなり心配になったんや。




「おい・・・・じゃ、そいつ、昼間はなーんもしねーで部屋ん中でぷらぷらしてるって事かぁ?」

「うん。あ、なーーんにもしないわけじゃないよ。最近はお茶碗を流しに下げて、お水につけとくくらいはしてくれるようになったよ」



・・・・・なんじゃ、それ・・・・。



「・・・・洗わねーのか?」

「だって。あの人に洗わせたら、全部割っちゃうんだもの。」

「メシ炊きくらいは・・・できるんだろな?」

「お炊事だめなのよ。火を扱うのが下手でね」



・・・・・おい。。。。ちょっと待てよ。。。



そりゃあ、きょうび、『男は外で働き、女は家を守るのが当り前』って風潮ではないよ、確かに。
女がばりばり外で働いて、男が家の中のことを担当する、ってのは、ぜんぜん悪いことじゃないと思う。

でも、・・・・この場合、それも当てはまってないんじゃないか?





「じゃあ、・・・そいつにできる事って、何さ?」

「うふふ。あのね」

「うん」



センは、そこで頬をぽっと赤らめて。

「お風呂♪」

「ふ、風呂ぉーーーーー????」

ちょっと待てっ! いくら新婚でも、いくら天然でも、昼間っから外で言っていいコトとよくないコトがっっっ!!




慌ててあたりを見回すリンにおかまいなく、センは嬉しそうに続ける。



「聞いて聞いてーー、すごいんだよー!! なんだか知らないけど、ぶつぶつ呪文みたいなの唱えたら、お風呂の中に、さーーーーっとお水がたまるの! さーーーーっと、だよ!? 魔法みたいなのーーー!!!」

「・・・・はぁ?」

「今度、リンさんにも見せてあげるね!」

「お・・お水ねぇ・・・・。どうせなら湯をためてくれりゃいいのに」

「ああ、それはできないみたい。だから、わたしがあとから火をくべにいくの」



・・・・・・・・。



リンの脳裏には。

なにやらあやしげな術で得意げに風呂に水をためる色白男と。
やんやと拍手喝采で単純に喜んでいるセンの。


ままごとのような姿が浮かんできてな。



あほらしくなってきたんやて。

けど、ほっとくわけにもいかんから。




「あのな。セン。そういうの、世間一般では『役立たず』とか、『ごくつぶし』とか、『ヒモ』とか言うんだぜ。・・・おめー騙されてるって。絶対」

「えー。そうかなぁ・・・」

「そうだって。なんかして稼がせろよ。なんでお前がそいつ養ってやんなきゃならねーんだよ」

「うーん・・・。わたしは別にいいんだけど」

「ばかやろー。畑仕事や炊事ができねぇんなら、機(はた)織りさせるとか、ろうそくに絵でも描かせるとか、傘張り内職させるとか・・・・さもなきゃ、色町に売り飛ばしちまえ!」

「そ、そんなあーーーーーーー」







* * * * * * * * * *



その夜のセン夫妻の『夕食時の話題』は。

なんとなくリンの話になったんやけど。


「・・・・・・なに? こ、このわたしが。。。『役立たず』で、『ごくつぶし』で、『ヒモ』だと言うのか・・・っっ!?」



話を聞いて、押しかけ亭主はわなわなと震えだしてな。



「なんという無礼なことを!! うむ、よかろう。明日から働いて、稼いでみせようぞ」


がぜん、やる気出したみたいなんやけど。



「じゃあ、明日から、一緒に畑に出る?」

「・・・いやそれは・・・これから紫外線も強くなるシーズンだし・・・」

「それじゃ、お炊事?」

「何を言う。わたしは火が苦手なのだ」

「んーー。じゃ、機織りとか、ろうそくに絵かくとか、傘張りするとか」

「辛気臭い」

「・・・・・いろま・・・」
ちに、売りには出さないけど。



と、押しかけ亭主は、水干の懐からなにやら一枚の紙をおもむろに取り出して、センに見せた。


「夕刻、町を歩いておったらな、渡されたのだが。これはどうだろう」

「ん?」


うすっぺらい瓦版のようなもの。


--------『高給保証。 容姿端麗な方、求む。 週に2〜3日、一日3時間位よりOK。秘密厳守』



「あ、あの・・・?」

「『容姿端麗な方求む』とあるだろう。しかも、毎日出勤しなくてもよいそうだ」


・・・・・そういう意味では、ぴったりかもしれないけど。。


「あ、あのね。これは、女の人向けの求人広告だと、思うの」

「なに、化粧をすれば、わかるまい」


そ、そうかもしれないけどっ!!!! なんか違うっ!!!!




「そうと決まれば、明日、さっそく面接に行ってくる」
言うなり、亭主は、柳行李の中から衣装を引っ張り出し、あれでもない、これでもない、と鏡の前であてがったりしている。




やる気満々なのは、いいけれど・・・・






「あの・・・・今まで聞いたことなかったんだけど・・・」

「何だ」

「あなたね、年いくつ?」

「ななっ、何を聞くのだっ突然にっ!!しししし失礼ではないかっっ!!!」



・・・・・あれ。聞かれたくないことだったのかな。




「だ、だってね、ここ・・・・ほら、年齢制限が・・・・」


瓦版には。最後のところに『年齢:20〜28歳位迄』と。



「う!?」
なぜ、センがわたしの『年齢』の秘密を知っているのだ!?




見かけは若くても。
実は相当、年『いって』るんやわ。この男。








言葉に詰まってしもうた亭主を前に、センは思った。




--------あ。黙っちゃった。でもね、どう見ても、20歳以上には、見えないんだもの。雇ってもらえないよ。きっと。






・・・やっぱり、どこまでも天然なセンであったとな。




* * * * *



<INDEXへ> <小説部屋topへ> <むかしばなし2へ> <むかしばなし4へ>