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<<< むかしばなし >>> 第四夜
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まあ、結局。
とりあえず、機織りでもするか、ということになったんやけど。
「よいか、セン。わたしが機織り部屋に入ったら、出てくるまで、決して覗いてはいけないよ」
「え?なんで?」
「・・・こういうパターンの話というのは、そういうものなのだ」
「ふうん?」
亭主が機織り部屋に入ってまもなく、機織りをする音が聞こえ始めたんや。
ちんからかん とんとんとん
ちんからとん こんこんこん
ちんから ちんから とんとんとん
センは、自分ひとり寝入ってしまうのも気がひけるもんで、わらじなど編みながら夜なべして、それにつきおうとった。
けれど。
半時もたたんうちに、その音が、ぱったりやんでしもうてな。
心配になったセンが、声を掛けたんやけど。
うんともすんとも、返事がない。
「ねえ・・・どしたの? なんで返事、してくれないの?」
覗いてはいけない、と固く言われていたけれど。
「だいじょうぶなの?? どっか、具合でも、悪いの??」
もう、心配で心配で、たまらない。
「ごめん。開けるよ!」
がらっ。
「・・・・・・・・・・。」
機織り部屋の戸を開けたセンの目に入ったものは。
「むにゃ・・・・・・ふふ・・・・セン・・・・・・むふ♪」
織りかけの布の上につっぷして、もそもそ寝言いいながら、ことのほか幸せそーな顔で眠っとる、白い龍・・・・。
眠ったまま時折、ぐふっぐふっと笑いながら、尻尾をぱふぱふぱふぱふ振ったりして。
半開きにゆるんだ口の端からへろろんと締まりなく舌がはみ出てるし。
そうやな。
庄屋はんとこで飼うたはるゴールデンレトリーバーの「まさお君」にちいと似とるかも。
ふぉっふぉっふぉっ、よいではないか、よいでは・・・・・、などと意味不明の言葉をつぶやきながら、とろけるように寝とるゴールデンレト・・・、もとい龍を見ながら、センは思うた。
「か、可愛い。。。(ぽっ)」
・・・・・・・。
気色悪い、の間違いちゃうか。。。
ええけどな、別に。。
と。
「あ・・・! 血が・・・たいへん!」
ふとセンは龍の顔の、、、、、とあるひとすじの『血』に気づいたもんで、いそいでその鼻の下を手拭いでぬぐってやってな。
とりあえず止血のために、ちり紙をまるめて鼻に突っ込もうとすると。
「ふごっ!?」
その龍が、がば、と目覚めて・・・・そして、うるわしい亭主の姿になったと。
「セン! ・・・・覗いてはならぬと・・・・あれほど約束したのに・・・・」
「で、でも・・・・」
「愚かなこと。・・・本当の姿を見られた以上、わたしはもう、人の姿をしていることが、できない」
「え・・ええっ」
「短い間だったが・・・・幸せだったよ」
亭主は、ちょっと悲しそうな顔をして。
そして、また白い龍の姿になってしもうた。
センは半狂乱になって。
「ごめんなさい!! 行かないで! どこにも、行かないで!!!」
叫びながら、美しい龍にすがりついた。
「センのそばにいて! お金なんか稼がなくっていい!! ここにいて、お願いーー!!」
と。
龍がにかっと、笑った。
「セン。今の言葉に偽りはないな?」
「え? う、うん」
「わたしはどこに行くとも言ってはいない」
「は?」
「人の姿になることは、もうできぬがな」
「はあ」
「だから、このまま、ここにいてやることにする」
「えっ、ほんと?? 嬉しい!!!!!」
・・・・・・おいおい。素直に喜んで、ええのかあんた。
「あ。でもね、そんなに大きいと・・・・目立つでしょう」
「うん?」
龍なんて、珍しい生き物だし。
もしさらわれて、見世物小屋なんかに連れていかれたら、いやだもの。
「もう少し、小さくなれない?」
「なれなくは、ないが」
白龍は、いうなり、ぐーーーっと小さくなって。
そうやな。
ちょうどセンの手の中におさまるくらいの、サイズになった。
「きゃーーー!!!! かわいーーーーっっっ!!!!!!!」
「か、・・可愛いか? ふむ。そうか?」
頬擦りされて、満更でもない、ミニ白龍。
「うん! この大きさなら、だいじょうぶ! ちょうど髪を結う『ヒモ』の長さだし!」
「ヒ、ヒ、『ヒモ』だとぉっ!?!?!?!」
とたんに気色ばむ龍を気にとめることもなく、センははしゃぐ・・・・
「これからは、ずっとわたしの髪どめがわりに、なってね。ずっとずっとそばにいてね」
「それはむろんかまわないが・・・『ヒモ』ではないぞっ! 『ヒモ』ではっ!!」
* * * * * * * * * *
そして。
それからというもの、センは野良仕事に出るときでも、毎日たいそう美しい髪留めをするようになってな。
「なー。セン、その髪留め、綺麗だなぁ? 白くて、きらきら光って」
リンが、声を掛けた。
「うん!そうでしょ!」
「そんな『ヒモ』、オレも欲しいな。どこで買ったんだ?」
「うふふ。ないしょ♪」
ぴちぴちぴち。ぴぴぴぴぴー。
ちゅんちゅんちゅん。
畑を打つ、女達の頭上から。
楽しげな、小鳥の声。
「ヒ、『ヒモ』ではなーーーーいっっっっ!!!!」
と、叫ぶ、龍の声は。
初夏の小鳥の歌声にかき消されて、女達の耳には届かんかったとか。
ともかくも。
ふたりは末永く、仲良く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
* * * * *
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