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<<< むかしばなし おまけ・人魚の涙 (3)>>>
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・・・・・か、可愛・・い・・・・・
ハクは、まばゆげに、目を細めた。
「ハク・・・・おかしくない?」
婚儀の衣装に身を包んだ千尋が、目のふちを恥じらいに染めつつ、尋ねる。
「おかしいだなどと・・・・・まるで、舶来人形のようだよ。・・・こんなに愛らしいそなたを伴侶にできるなど、わたしは果報者だ・・・」
うっとりと千尋の手を取ろうとしたところに、、、
「はいはーい。ハクさま、そこまでですよ、そこまで。」
----------あやめが割って入った。
「・・・・正確に言うとやね、『伴侶』とちごうて、『伴侶の
役
』なんですよ、ハクさま。もっと正確に言うと
『ええとこまでいって伴侶になりそこなう
損
な役』
いうとこなんやけど。わかったはります?」
ひさかたも、間髪おかずツッコミを。
・・・・人が良い気分で愛らしいものを眺めている時に、余計な事を言わぬでもよいではないかと思いつつ、もう一度、ちら、と千尋を見やるハク。
・・・やはり。
か、可愛い・・・っ!!
文金高島田の嫁入り衣装もよいが。
このような姿も、また悪くないではないか。
うん、千尋がこういうものの方が好きだというのなら、私は、ちっとも構わぬとも。
ひとりで肯きながら、再び夢うつつモードに突入してしまう、恋する龍の少年。
誉められて嬉しそうな千尋は、異国の『
王子
』の姿。なのだが。。。
まばゆいばかりの白い絹に金の紋章をあしらった、婚礼用の盛装。
ひるがえるマントを紅色の宝玉のボタンで留め、白手袋にブーツ。
大きなつばのついた帽子には、ふさふさとしたダチョウの羽飾りが華やかで。
「うふふん。あたしのセンスもなかなかのものでしょ?」
衣装のデザインをしたみちるが満足げに肯く。
湯婆婆に提示された材料費でここまでのものを作るのは結構大変だったのだ。
そこに、もう一組の衣装を持って、にこにことまきがやってきた。
「あのぉ、可愛い王子様に見惚れているのもいいですけど、・・・・お次はハクさまの番ですよ? ・・・・どうぞこれを。」
・・・・はっ!
突然現実に引き戻される、ハク。
「あ、いやそれは、その、、、、あ、私は思うのだが、この役は私などよりも、、、た、例えば売れっ妓の大湯女にでもさせるほうが、お客さまはお喜びになるのではないだろうか。」
ぴし。
それまで、まあそれなりになごやかだった、その場の空気が、いっぺんに変わる。
つかつかと歩み寄ったのは、銭婆。
「ハク龍よ。あんた、男だろ。一度する、って言ったモンをだね、やっぱいやですぅ〜〜ごめんなさぁい〜〜、なんて、・・・・許されると思うのかいッ???」
「いえ、あのぅ、ものには、役どころといいますか、適材適所といいますか、、その、、、、」
「ハク・・さまっ! やっぱりわたしが王子様の役じゃ、嫌なんですかっ!!」
ええ、もう、千尋はうるうるのべそべそ。
「あ、だから、セン、そうじゃなく・・・・・」
終業後。
銭婆の言うところの、『
アレ
』・・・・すなわち、『
衣装合わせ
』ということで。
有無を言わさず、女達に大広間へ引きずり込まれてしまった、うるわしき帳場頭。。
・・・・・百歩譲って、『衣装合わせ』の必要性は理解しよう。
が、しかしっっ!
いったい、なぜ!!!
湯屋の女たちが総出で、きゃあきゃあと嬉しそうに『衣装合わせ』を
見学
にくる必要が、あるのだーーーーー!!
おろおろとうろたえる若き龍神を、「実行委員」を中心とする女達がざざざーーーーーっと取り囲む。
「ハ〜〜ク〜〜さ〜〜〜〜ま〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!! あたしたち張り切って、パツキンのカツラ、ほら、もう作っちゃったんですよっ!!! 今さら嫌だなんて、通るとでも思ってるんですかっ!!」
女性一同を代表して、あやめが大声で抗議すると。
女たちが、うんうんと、肯く。
「おまけにっ!『くじ』まで、もう作っちゃったんですからっ!!」
みちるも声を荒げ。
ふたたび女たちが、うんうんうんと、肯く。
「くじ?いったい、何のくじだ?」
「うふふふ。『4等:ハクさまの足を押さえる』」
「は?」
「『3等:ハクさまの右手を押さえる』」
「・・・みちる?」
「『2等:ハクさまの左手を押さえる』」
「な、なんのことだ」
「『
1等:・・・・・・ハクさまを
脱がせる
vv
』」
「っっ!?!?!?!」
「あの、、、わたしもそのくじ、引いていいんですか?」
それまで大人しく見学していた青儀が、遠慮がちに質問する。
「あら、もちろんよ〜〜」
「ありがとうございます!!
勉強
になります!!!」
真っ青になっている帳場頭の少年を、ひさかたとまきが
慰める
。
「そないに心配せんでもだいじょうぶですって。別にみんなしてハクさまを
てごめ
にしようとかって訳とちゃいますし」
「そうです。ただの、
『衣装合わせ』
ですから。抵抗さえされなければ、すぐにすみますよ? さ、ハクさま、お心を静めて」
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