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<<< 立春 >>> 第十三夜

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ぎゅうううぅっ。

「嫌!」




ぎゅううううううっっっ!

「嫌だからね!」




「・・・・千尋?」


「手を離したら、嫌っ!」
ぎゅうううううううううううううーーーーーーーっっっっ!!!!!


ぎゅうぎゅうと、ありったけの力をこめているのは。
千尋の小さな手。


うんうんと、真っ赤な顔をして。
自分の胸のあたりで交差されている、少年の手を。
離すものか、と。一生懸命握り締めている。

このまま、離されたく、ないと。


どんな思いで、彼が自分を抱き締めているのか。
それをあますところなく理解するには、彼女は幼くて。




ただ。
感じた。


少年の気持ちと。
自分の気持ちが。

とても近くて、なのに遠い場所で。
互いに迷子になってしまっていることを。



もし今、彼が少しでも腕をゆるめたら。
もう、永遠に出会えないような。

そんな、
漠然とした不安にかられて。


その腕に、しがみつく。




「きらい?」
「え?」

「こんな、わがままな女の子、困る?」
「我侭だなどと・・」

ハクの腕の力が、思わず少し緩む。
と同時に、千尋の指の力が、がっと強まる。
「嫌だったら! 離したらだめなの!!」
「は、はい」


・・・・・。
まるで叱られているようだ・・・。







「あのね。」
「うん?」

「なんだか、わたしも、鬼になったみたい」
「鬼?」

「『目隠しおにごっこ』って、知ってる?」
「ああ・・わらべあそびの」

「うん。・・・わたしたちふたりとも、目隠し鬼になってるみたい」

うまく言えないけど。なんとなく。
お互いをさがしているのに。
つかまえられなくて。途方にくれて。
そんな気がするの。


  ・・・・・そのつぶやきは、わらべうたのようで。



そして。少女は。
鬼の視界をくもらせるうっとうしい目隠しを。

何のてらいもないことばで、
-----いとも軽やかに、取り去った。



「ハク、って呼んで、いいんだよね? わたし」

「・・・・!・・・・」






           鬼さん、こちら。               
              手のなるほうへ。
   
           鬼さん、こちら。       
              桃の実、しんじょ。          
   
           鬼さん、こちら。       
              手のなるほうへ。

           鬼さん、こちら。    
              栗の実、しんじょ。



※しんじょ:「さしあげましょう」



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