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<<< 立春 >>> 第十四夜

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春浅い鎮守の森に。

水干姿のふたりのこども。

たちすくむ、龍神の子のまわりを。

くるくると無邪気に跳ねる、人の子。

謡いながら。踊りながら。

龍神の子を、誘う。

"ねぇ。一緒に、遊ぼうよ?"





---鬼さん、こちら。手のなるほうへ。---





駆けっこなら、負けないよ、と龍の子。

そう? じゃ、つかまえて? と笑う人の子を。

軽々と捕らえたつもりが。



------- 気がついたら、捕らえられていた -------








くしゅん!

千尋が小さなくしゃみを、ひとつ。


  
   ああ、この部屋には、火鉢ひとつないから。



少し考えて。
ハクは、千尋をすい、と抱き上げた。

「ハク?」

名を呼ばれることがここちよく。
少年の頬が少し、緩む。




白い敷布団の上に、少女を降ろして、座らせる。
隣に自分も座ってから、掛布を引き寄せて。
ふたり一緒に、肩からそれを掛けて、くるまる。


「このほうが、あたたかいから」
「うん」

「・・・・・不埒なことは、しないから」
「ふらちなこと、って?」
    ・・・・・言うのでは、なかった。。。。



氷雨はいつしか、止んでいた。
雷鳴も遠のいていて。

たぶん、明日は暖かくなる。


ふたたび窓の外に顔を見せた十六夜月(いざよいづき)を見やりながら。


「千尋。」
「なあに」

「今宵は、夜伽に、つきあってくれないか?」
「よとぎ、って、なに?」


やはり、知らない言葉だったのだ、と思いつつ。
龍の少年は、少し胸をなでおろす。

「あのね。ひとが亡くなったときに、そのひとを偲んで、一晩お守をすることなんだよ」
「お通夜のこと?」
「・・・そう。」

「だれが・・・亡くなったの?」

心配そうに覗き込む頬を、軽く撫でてやりながら。
「鬼が、ひとり亡くなったんだ。」


自らの心に巣食う、よこしまな『鬼』を。
煩悩に苛まれる、愚かな、『鬼』を。
野辺に、おくろう。

そして、まっさらな心で、もういちど、少女に向き合おう。



「おに・・・って、、仲のよかった神様?」
「そうかもしれない」
「・・・・そのわりには、嬉しそうだね?」
「そう?」

くすくすと、笑う龍神の少年。



変なの。と、首をかしげる、少女。


でも。
うれしい、な。
ハクが、笑ってる。


うふふ。
とっても、うれしい、な。





満面の笑みを浮かべる、千尋。

つられてハクもまた、柔らかく笑う。


額と額をくっつけて。
ふたりだけで。

くすくすくす。
ないしょ笑い。



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