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<<< 立春 >>> 第七夜

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----------真剣に取らないでよ? お遊びみたいなものなんだから---------



走り去った少女の言葉の意味をつかみかねて、龍の少年は悩んでいた。



あいにく、自分は戯れの恋をできるくちではない、と思う。

恋の手練手管に長けているわけでもなく、駆け引きが得意なわけでもない。



だから。
自分なりのやりかたで、人を恋う、という想いを表現していたつもりなのだけど。

人間の娘にとって、それは、まどろっこしかったのだろうか。


もっと、肩の力を抜いて、軽い気持ちになれ、
とでも、言いたかったのだろうか。


でも、それだったら、あの涙はなんなのだ。



思いつめてしまうのは、悪い癖。

ため息。






・・・・・・こういう時には、やはり人生の先輩の話が聞きたくなる。





龍の少年の足は、向くともなしにボイラー室へ。


くぐり戸を抜けると。





「あ。・・・・・、そなたたちも、いたのか。・・・・」


「なんだよ。いたら、悪いか?」
「ちう? ちうちうちう?」

所在なげにやってきた、ハクの目の前に。
狐娘に坊ネズミ。



「これ、リン。そんな口を利くな。・・・・どした、ハク、なんかあったんかのう?」
蜘蛛の老人は茶をすすめてくれる。

「ほれ。いい茶菓子があるぞ。女達がくれたんじゃ」



ハクが釜爺に視線を向けると。
彼は、盆に山盛りのチョコレートをもぐもぐと口に運んでいる。




ほぉ・・・・・。

あ、いや、えっと、意外だとか、うらやましいとか、そういうわけではないが。




「あ。オレからも。釜爺には、世話になってるし。」
リンが、釜爺に同じような、菓子を渡す。




・・・・・え?・・・。



こ、これは、正直、意外。

なんと。『そういう』ことだったとは。
しかし、リンも大胆な。他人の目の前で。
いや、最近の若い娘というのはそんなものか。
あ。
だったら、自分や坊は完全にお邪魔虫だ。
早々に退散すべきか。



いろいろ考えてしまっているハクの目の前で、釜爺はあっさりとそれを受け取る。


「おお、ありがとよ。女達から聞いたが、人間の世界には粋なならわしがあるんじゃなあ。長く生きとるが、この年まで知らんかったぞ。」
孫のような娘からの贈り物に、目を細めて喜ぶ。


「ほれ、ハクも食え。そうじゃ、センからも、もらったぞい」


・・・・・・え?!


「ちーう。ちうちうちうーーー!!!!!!!」
自分ももらったのだ、と自慢げにアピールする、仔ネズミ。


・・・・・・ええっ!?!?!?






生真面目な龍神の少年が、目の前でやりとりされている菓子の意味を、はかりかねて。
首をかしげていると。



リンが菓子の包みを開いて、ひょい、と、ハクに差し出した。
「ほら、ハク様、あんたもつまむ?」

はっ?! 」
突然の『申し出』にかなり面食らう、ハク。

「・・・なんて顔してんだよ」

「あ、いや、、すまない、そ、そなたの気持ちはありがたいが、、、私は、え、遠慮、しておく・・・」


「は? あ。そっか。センに義理立てしてんだな。ほー。」

「え、ええと、その・・」

「なんだよぉ、もらったんだろ?」

「・・・・・・。」

「それ、センからだろーが」
少年の手の中の、はなびらづつみにされた可愛らしい贈り物を、じろりと見るリン。


その視線に気付き、大慌てで包みを懐の中につっこむ、ハク。


「で。・・美味かったか?」


「う、うまっ・・!?」

健全青少年の動揺、最高潮。大汗滝汗油汗。顔汗足汗背中汗。


「なななななっ、何ということを言うのだっ、リンっ!!! 私は、だなっ・・!」

「何あわててんだよ? ほら。オレにもくれたぜ、セン。」

「・・・は??」

「豚になっちまったおやじさんやおふくろさんにもやるって言ってたなぁ・・・・湯婆婆にまで渡してたのにはびっくりしたけど。あいつってば、ほんと律儀なやつだから。」




・・・・・・・・。




ようやく、なんか変だ、と思い始めた、ハク。


「おじいさん・・・つかぬことを尋ねますが・・・・・」

「ああ?なんじゃい」

「その・・・。あなたとリンとは・・・・世間で言うところの、『男と女』の仲、なのでしょうか?」


ぶーーーっと茶を吹き出す、蜘蛛の老人。


「ななななななっ、何言い出すんだ、てめーー!!!!」
真っ赤になって怒り出す、狐娘。


「違うのですね?」
「あったりめーだろーっ!!!!!!」


そして今度は、狐の耳と尾を、びょう、と出しているリンに向かって。
「リン。そなた、わたしに特別な感情を持っているわけでは、あるまいな? ・・・ましてや、褥(しとね)をともにしたいなどとは。」

わなわなと震えはじめる、リン。
「こ、、このー・・・・!!!、言うに事欠いて、何いいやがる・・っっ!!!」



ハクにつかみかからんばかりのリンを、釜爺が慌てて宥める。


「おいおい、ハクよ、・・・・いったい何じゃ??」



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